歯科科学者の不足
2001年に米国歯科医師会が発表した報告書「Future of Dentistry」には、現在、歯学教育の危機と呼ばれているものを含め、歯科医師が直面している多くの問題がまとめられています。
この危機は、学問や研究を仕事の目標にする人が少ないために深刻化している、歯学部の教員不足と言った方が適切かもしれません。
1990年代後半には400人近くいた教員の空きが、2002年には373人になったと言われています。
この未充足のポジション数の減少は、教員の採用よりも、(歯科大学の予算削減のために)これらのポジションが廃止されたことが主な要因です。
米国の歯学部におけるフルタイム教員の空席の10年間の推移を示しています。
過去5、6年の間、ほぼ一定の水準で推移していることから、近い将来、この数が減少する可能性は低いと考えられます。
未充足の常勤職は約275名ですが、その中には臨床系教員のポジションもあるため、これを研究系教員の必要数と解釈してはいけません。
空きポジションの主な活動別の分布を示したとことでは、そのうち45人が基礎科学・研究職です。
しかし、それに加えて、194名の臨床職の中には研究志向のものもあるでしょう。
すべての職種において人材不足は深刻ですが、研究職の補充は特に困難です。
というのも、臨床職のように臨時職員やパートタイム職員のプールがなく、開業歯科医が補充できるからです。
歯科医師は、研究者になるための訓練を受けていませんし、多くの歯科医師は、新しい分野の知識を探求することに興味も能力もありません。
学生に歯科治療を教える臨床家は、間違いなく歯学部の使命に不可欠な存在ですが、ここでは議論しません。
この採用の問題は、今後10年間に歯学教育で必要とされる科学者の数の全てを語るものではありません。
おそらくより危機的な状況は、現在の教員の維持です。
American Dental Education Associationの2001-2002 Survey of Dental Schoolsのデータによると、2001-2002年には9%にあたる1,011人の教員が職を辞しています。
このレベルは前学年の約2倍です。
また、2001年から2002年にかけて、53%の教員が学術的な職を辞して個人開業しており、これは前年に比べて18%の増加です。
2001-2002年にこのような傾向が見られた理由としては、退職、他校への移動、経済の低迷などが考えられます。
教育機関の予算の制限は、歯科医師の募集と維持に一部責任があります。
過去10年間、教員の給与は約25〜30%増加しましたが、開業医の収入は78%増加しています。
1998年に歯学部に入学した学生のうち、約60%は教育費の借金がありませんでした。
負債があると答えた学生の平均負担額は25,300ドルでした。
したがって、教育費の借金がほとんどない志願者は、すぐに収入を得て借金を返すのではなく、興味のあることを追求するキャリアパスを自由に選択することができるという根拠があるかもしれません。
しかし、2002年に歯学部を卒業した学生のうち、29%が10万ドルから14万9,999ドルの負債を報告しています。
また、15万ドル以上の負債を報告した学生も29%いました。
国公立および私立の歯学部を卒業した全学生の平均負債額は107,500ドルでした(この平均には無借金の学生も含まれています)。
少なくとも何らかの負債を抱えていた学生の平均負債額は122,500ドルでした。
一般的に、歯学部で使用する器具を購入する必要があるため、彼らの負債は医学を含む他の職業よりも高くなっています。
債務が進路に与える影響については、歯学部の学生の約24%が、債務が進路に影響を与える要因として挙げていることからも明らかです。
さらに、負債額が増えるにつれて、負債額の多いシニア層がすぐに開業することを選ぶ割合が徐々に高くなっています。
歯科医師の間で研究への関心が低いことの最も大きな要因は、開業医では非常に有利なキャリアが期待できることでしょう。
一般開業医の年収は15万ドル近く、専門医は20万ドル以上と言われており、口腔ケアが大幅に進歩しても将来的にこの数字が下がることはありません。
このように、研究に興味のある学生の多くが、より高収入で、彼らから見ればより安定したキャリアである臨床現場を選んでいるのです。